御徒町の裏通りを歩けば、どこからともなく漂ってくる香ばしい匂いがある。老舗店が守り続ける太香胡麻油と白ごま油の独自ブレンドだ。高温の油の中に投入された穴子やハゼが、シャッと心地よい音を立てて花を咲かせる。衣はサクッと香ばしく、中は驚くほどふっくら。創業半世紀を超える名店では、職人が長年の経験で培った指先の感覚だけで油の温度を1度単位で見極める。
江戸前天ぷらの真骨頂は、東京湾や近海で獲れた新鮮な魚介を仕込みの段階で完璧に締め、旨味を極限まで引き出す点にある。包丁の入れ方ひとつで衣の付き方や火の通りが劇的に変わるため、職人たちの眼光は鋭い。古き良き下町の情と、妥協を許さない職人魂が、この一皿に凝縮されている。