飼育下での増殖に成功したプロジェクトチームが次に見据えたのは、前例のない「野生絶滅種の故郷への再導入」でした。タンザニアのキハンシ峡谷では、生息環境を取り戻すための大掛かりな環境再生工事が実施されました。
ダムからの放水路周辺に張り巡らされたのは、全長数百メートルに及ぶパイプラインと人工スプレーノズルシステムです。人工的に滝の飛沫を再現することで、かつての湿潤なマイクロクライメート(微気候)を渓谷の岩肌に蘇らせました。さらに、侵入した外来種植物の除去やカエルツボカビのモニタリング体制など、受け入れ態勢の整備が進められました。
そして2012年10月、ブロンクス動物園などで大切に育てられたキハンシヒキガエルたちが専用コンテナでタンザニアへと里帰りを果たし、生まれ故郷のキハンシ峡谷へ放流されました。一度は自然界から完全に消え去った両生類が、人工繁殖を経て元の生息地へ復帰を果たしたこの出来事は、保全生物学の歴史に刻まれる奇跡の復活劇として世界中で大きなニュースとなりました。