江戸時代後期、日本全国を歩いて測量し『大日本沿海輿地全図』を作り上げた伊能忠敬。彼の手による精密な地図は、現代のデジタルマップと比較しても驚くほどの正確さを誇るが、それと同時に過去200年間の圧倒的な環境変化を記録した貴重な地質的証言でもある。
伊能忠敬が描いた関東地方の沿岸線と、現代の地図を重ね合わせると、江戸湾(東京湾)沿岸や九十九里浜の形状が大きく変化していることがわかる。特に東京湾奥部では、明治以降の凄まじい埋め立て工事によって、かつての遠浅の干潟や砂州が完全に消滅した。
人間による土地改変の足跡と、自然の堆積作用のシナジー。歴史的な測量データは、関東平野が「自然の産物」であると同時に、「人類が書き換えてきたキャンバス」であることを生々しく物語っている。