犬の急性血便において、臨床現場で最も警戒されるのが急性出血性胃腸炎(AHDS:Acute Hemorrhagic Diarrhea Syndrome)です。かつてはHGE(出血性胃腸炎)と呼ばれていたこの疾患は、原因の全容が未だ解明されていないものの、クロストリジウム菌が産生する毒素などが関与していると考えられています。
AHDSの最大の特徴は、「いちごジャム状」と表現される特異な悪臭を放つ大量の血便が突然噴出することです。赤血球容積比(PCV値)が60%以上(正常値は37〜55%程度)にまで急上昇し、激しい脱水と低血圧から数時間でショック死に至ります。ただし、早期に動物病院で大量の点滴治療と対症療法を開始できれば、助かる確率は90%以上に跳ね上がります。治療の遅れが文字通り生死を分けます。
もう一つの脅威が犬パルボウイルス感染症です。3日〜7日程度の潜伏期間を経て発症し、骨髄細胞や腸の陰窩細胞を集中的に攻撃します。激しいトマトジュース様の血便と持続的な嘔吐、白血球の急減を引き起こし、無治療の場合の致死率は90%超に達します。子犬や免疫力の低下したシニア犬では特に進行が早く、二次感染による敗血症であっけなく命を落とす危険を孕んでいます。