この歌は、平安時代後期の1086年に完成した『後拾遺和歌集』の巻十二(恋歌四・763番)に収録されています。その詞書には、緊迫した当時の状況が次のように記されています。
【詞書】
「心地そこねて、侍りけるころ、人のもとにつかはしける」
「心地そこねて」とは、単なる体調不良ではなく、重い病に倒れて起き上がれない状態を意味します。平安時代の医療水準において、重病は文字通り死と直結していました。薄れゆく意識、高熱に苛まれる身体の中で、彼女は最後の力を振り絞って筆を執り、使者に文を託したのです。
恋歌四という分類からも明らかなように、単なる病気の報告ではなく、自らの死期を目前にした究極のラブレターでした。死後の暗闇へ持っていく唯一の光として「あなたとの最後の逢瀬」を希求する姿は、平安貴族の形式的な贈答歌の枠を完全に超越しています。