日本の家庭料理において、薄切り肉を使った巻き料理・はさみ料理は独自の進化を遂げてきた。その礎を築いた料理家たちの知恵には、今なお学ぶべきエッセンスが詰まっている。
長年にわたりNHK『きょうの料理』で親しまれてきた栗原はるみは、日々の食卓に並ぶ気取らない素材を、丁寧な下処理でごちそうへと昇華させる名手だ。彼女のアプローチは「素材の重なりがもたらす食感の妙」を重視する。肉を無理に厚くせず、あえて薄切りの豚ロースやバラ肉をミルフィーユ状に重ねることで、歯切れの良さとジューシーさを両立させる技術は、はさみ焼きの基本骨格となっている。
一方で、シンプルかつ合理的な調理法で絶大な支持を集めるコウケンテツは、肉の下味と火入れのスピード感を説く。肉に直接塩を振るのではなく、仕上げのタレの浸透圧を利用して肉汁を閉じ込めるスタイルは、忙しい現代のライフスタイルに完璧にフィットする。両者の哲学が交差する地点に、現代の完成されたレシピが存在している。