名声を誇る大温泉街の華やぎから一線を画し、道なき道の先でひっそりと灯りをともす山あいの宿。そうした孤高の温泉地を守り抜いてきたのが「日本秘湯を守る会」の宿群である。手付かずの自然環境、自家発電のランプの灯火、地熱が香る素朴な湯小屋。効率や近代化とは対極にあるこれらの宿は、都市生活者が忘れてしまった自然への畏敬の念を呼び覚ます。
一般社団法人日本温泉協会が推進する厳格な温泉表示制度や泉質保護の取り組みとも連動し、源泉そのままの魅力を保ち続けることは容易ではない。豪雪や土砂崩れ、厳しい気象条件と対峙しながら、毎日湯底を磨き、温度を微調整する湯守たちの執念があってこそ、奇跡のような入浴体験が成立する。プロの湯巡り人が口を揃えて「秘湯こそが温泉文化の生きた化石」と語る所以がここにある。