テレビ番組『料理の鉄人』で数々の名勝負を繰り広げた和食界の巨匠・道場六三郎氏の思想は、西洋生まれのステーキ調理にも鮮やかなインスピレーションを与えてくれる。道場流のアプローチにおいて重要なのは、「和の調味料が持つ発酵の力」と「引き算の美学」だ。
洋食のベースになりがちなバターとニンニクの組み合わせに、ほんの数滴の醤油と日本酒、そして仕上げの昆布出汁を加えることで、肉の脂っぽさが消え、コクだけが引き立つ。特に焼き上がりの直前にフライパンの鍋肌から垂らす「焦がし醤油」の香気成分は、牛肉が持つアミノ酸と反応し、強烈な食欲をそそるアロマを醸し出す。
ジャンルを超えたこの和洋折衷の工夫により、家庭の食卓に出される一皿が、一瞬にして料亭の格を備えた極上の肉料理へと昇華する。