ネット上の掲示板やSNSでは、お酌を巡る現場の生々しい葛藤が日々書き込まれています。特に20代から30代の若手層と、40代以上のマネジメント層との間には、依然として認識のズレが存在します。
「瓶ビールを持って上司の席を回る『お酌ツアー』のせいで、会費を払っているのに料理がすべて冷め、味すら覚えていない」(20代・IT企業勤務)
「自分のタイミングでお酒を楽しみたいのに、勝手にグラスを満杯にされるとプレッシャーでしかない」(30代・メーカー勤務)
こうした不満が噴出する一方で、接待の多い営業職からは次のような実利的な証言もあります。
「会話の糸口が見つからない時、お酌は最も自然に相手の懐へ飛び込めるきっかけになる。相手のグラスの減り具合に気を配れる人は、仕事の進行管理や顧客の要望察知能力も総じて高い」(40代・商社営業管理職)
また、日本の酒文化には地域固有の特殊な作法が存在します。代表的なものが高知県や九州の一部に色濃く残る「返杯(へんぱい)」文化です。自分が飲み干した杯を相手に渡し、そこに酒を注ぎ返して互いに飲み干す儀礼であり、強固な仲間意識を醸成する装置として機能してきました。しかし現代のビジネス宴席では、衛生観念の変化や感染症予防、アルハラ回避の観点から、親密な私的宴席を除いて原則控えるのが全国的な共通認識です。
一方、酒屋の店先で立ったまま酒を飲む「角打ち(かくうち)」や大衆立ち飲み居酒屋においては、お酌のルールは180度反転します。角打ちは自立した個々の呑兵衛がそれぞれの酒と対峙する場であり、見知らぬ他者にお酌を強要したり、連れ合い同士で仰々しくお酌をし合ったりする行為は、むしろ「無粋(ぶすい)」とみなされます。「自分の酒は自分で注ぎ、マイペースを崩さない」ことこそが、酒場の空間規律を守る最高のマナーです。