高齢化が進む中で大きな社会問題となったのが、認知症の高齢者が徘徊中に線路内へ立ち入り、電車にはねられて死亡した事故です。
2007年に愛知県大府市のJR東海道線で発生した事故では、JR東海が死亡した認知症男性(当時91歳)の妻と長男に対し、約720万円の損害賠償を求めて提訴しました。下級審では家族の監督責任が一部認められたものの、2016年の最高裁判決において家族側の逆転全面勝訴(賠償責任なし)が確定しました。
最高裁は、「民法第714条で責任無能力者の損害を賠償すべき監督義務者に該当するかどうかは、単なる親族関係だけでなく、同居の有無、日常的な介護状況、客観的な監督可能性などを総合的に考慮して判断すべきである」との厳格な基準を示しました。別居していた長男はもちろん、自身も高齢で要介護状態にあった同居の妻に対しても「24時間の監視を求めるのは酷であり、法定の監督義務者には当たらない」と判断を下したのです。
この最高裁判決を契機に、認知症高齢者による事故において、同居家族へ安易に賠償責任を負わせる鉄道会社の訴訟姿勢は見直しを迫られることになりました。