メルエムという存在を語る上で欠かせないのが、軍儀の盤上で出会った無垢な少女コムギの存在だ。言葉も通じぬ怪物が、盤上のゲームで一度も勝てない盲目の人間に敗北を重ねるうちに、己の存在理由や生命の尊厳について問い始める。絶対的暴力を象徴する王が、「心」を獲得していくプロセスはあまりにも美しく、切ない。
王の念能力は、他者の肉体や念能力者を食すことでそのオーラを自らのものとし、さらに昇華させるという極めて凶悪な質を持つ。護衛軍のユピーやプフの能力を吸収した後のメルエムは、文字通り神の域に達していた。しかし、最期の瞬間に彼が求めたのは世界征服の力ではなく、ただコムギと盤を挟んで過ごす静寂な時間であった。毒に侵され視力を失いながらも、二人が手を重ね合って迎えたラストシーンは、読む者の胸を深く締め付ける。