日本語能力試験(JLPT)のN3文法シラバスや日本語教育の現場において、「〜てもみない/〜とは思ってもみなかった」という構文は、「想像の範囲を完全に超えており、頭に浮かべることすら全くしなかった」という強い主観的驚きを表す表現として定義されています。「彼が再婚するとは思ってもみなかった」「まさか自分が宝くじに当たるとは思ってもみなかった」といった日常会話の例文が示す通り、本来は個人の感情を素直に吐露する言いまわしです。
日常会話であれば何気ない一言ですが、ビジネスで上司や取引先といった目上の人物に対して用いると、思ってもみなかった 意味の根底にある「思考の不在」が思わぬ摩擦を引き起こします。具体的には、次の2つの心理的トラップが作動するためです。
第1に、「相手の能力や成功をあらかじめ低く見積もっていた」という無意識の侮蔑が伝わってしまう点です。たとえば、上司が大型契約を獲得した際に「部長が成約を取れるとは、思ってもみませんでした!」と賞賛のつもりで発言したとします。言われた側からすれば、「君は最初から私が失敗すると思っていたのか」「私の実力をその程度だと見下していたのか」と受け取られかねません。丁寧語の「でした」を付与したところで、思ってもみませんでした 失礼とされる本質は、相手に対する期待値の低さを白日の下に晒してしまう構造にあります。
第2に、思ってもみなかった ビジネスの文脈において、自身の「リスク管理能力の欠如」を公言することになる点です。予期せぬトラブルが発生した際、担当者が「このような事態は思ってもみませんでした」と弁明すれば、周囲には「単なる職務怠慢」「想定リスクの検証を怠っていた言い訳」と映ります。ビジネスパーソンに求められるのは、あらかじめあらゆる可能性をシミュレーションしておくプロフェッショナリズムであり、「頭の片隅にも置いていなかった」という告白は、自身の見通しの甘さを露呈する悪手に他なりません。