伝統芸能産業において、松竹株式会社が果たす役割は単なる所属事務所ではない。劇場の維持管理、大道具や小道具の製作、長唄や鳴物といった地方(じかた)の手配まで、演劇興行業に関わる莫大な固定費を一手に引き受けている。この巨大なインフラが存在するからこそ、役者は舞台に専念できる。
だが、その構造は役者の取り分に対して厳格な天井を設けることにもつながる。興行収入から劇場の運営費、宣伝費、スタッフ人件費を差し引いた後、役者に配分されるギャラの比率は極めて緻密にコントロールされている。どれほど満員御礼が続こうとも、固定の契約割額以上のボーナスが青天井で支払われるわけではない。
この興行構造に対するリスクヘッジとして、近年の一流役者たちは個人事務所を設立し、外部のプロデュース公演やテレビ番組、イベント出演などのマネジメントを自前で行う動きを加速させている。松竹との良好なパートナーシップを維持しつつ、自らの興行権を握ることで実質的な手取りを最大化させる戦略が定着しつつある。