長編アドベンチャーとは趣を異にしながら、大人の涙腺を最もダイレクトに直撃するのが、1999年に同時上映として公開された短編『映画ドラえもん のび太の結婚前夜』だ。結婚式前夜のしずかちゃんとその父親が交わす夜更けの会話は、日本映画史上に残る名シークエンスとして名高い。
自分が嫁ぐことで両親を寂しくさせてしまうのではないかと悩む娘に対し、父親が穏やかなトーンで語りかける台詞の数々は、人生の深みを味わい尽くした大人にしか書けない至言に満ちている。「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとって大事なことなんだからね」。
この名言は、欠点だらけののび太という存在を全肯定すると同時に、劇場の親世代観客の心を鷲掴みにする。日常に根ざした温かいヒューマンドラマとしての完成度は凄まじく、ファミリー映画が到達したひとつの頂点と言っても過言ではない。