山梨県の甲府盆地を訪れると、扇状地という地形がもたらす恩恵の大きさに圧倒される。見渡す限りの斜面を覆うブドウやモモの果樹園。これは偶然の産物ではない。果樹栽培にとって最も重要な「極めて良好な水はけ」と「日当たりの良さ」、そして夜間の冷気が滞留しない斜面温暖帯という条件を、扇央の礫層が見事に満たしているからだ。
だが、この「水はけの良さ」は時として住民の警戒心を鈍らせる罠にもなる。普段は水がまったく流れていない乾いた川底(水無川)を見て、危険のない場所だと錯覚してしまうのだ。想定を超える集中豪雨が襲った際、地下の水みち(伏流)の許容量を超えた濁流は、かつての流路(旧河道)をたどって一気に地表へと溢れ出す。甲府盆地が刻んできた開拓の歴史は、豊かな実りと突発的な水害との果てしない駆け引きの歴史そのものである。