威勢のいい掛け声が響き渡る「市民の台所」は、朝7時を回るとすでに熱気を帯びている。約300年の歴史を誇るこの市場において、近江町市場振興組合の主導による衛生管理や情報発信の強化が進み、国内外から訪れる観光客の流れは劇的に変化した。だが、大通り沿いの華やかな海鮮丼店に行列を作る観光客の背後で、地元の買い出し人たちはまったく別の路地へと消えていく。
彼らが向かうのは、市場の奥深くに佇む仕込み直結の食堂や、鮮魚店直営の小さなカウンターだ。朝獲れのキジハタやガスエビが、氷の上に並んだわずか数十分後には刺身となって皿に盛られる。近年の観光業の急拡大によって価格が高騰する店舗も見られるなか、路地裏の老舗は実直な適正価格で極上の鮮度を提供し続けている。朝一番の静寂が残る時間帯こそ、この市場が本来持つ圧倒的な底力を体感できる唯一のチャンスなのだ。