彼の名を日本全国の津々浦々まで知らしめた決定打といえば、映画『君の名は』三部作だ。数奇な運命に翻弄される主人公・後宮春樹を演じた彼の姿は、当時の日本中を甘美な溜息で包み込んだ。すれ違う二人の切ない恋模様に人々は涙し、映画館の窓口には連日、気の遠くなるような長蛇の列ができたという。
ヒロイン・氏家真知子を演じた岸惠子との化学反応は、まさに映画史に残る奇跡だった。彼女のショール姿「真知子巻き」が一大トレンドとなったが、その切なさを引き立てたのは間違いなく佐田啓二の持つ圧倒的な包容力だ。すれ違いの連続というドラマチックな展開を、嘘のない確かな演技でリアルな感動へと引き上げた手腕は見事というほかない。