2026年7月、九州南部を襲った猛烈な豪雨によって、曽木発電所遺構はかつてない試練に見舞われました。濁流が押し寄せ、ダム湖の水位が観測史上最高レベルに達するなか、長年親しまれてきた赤煉瓦造りの正面壁面(ファサード)の上半分が轟音とともに崩れ落ちたのです。SNSやメディアでは「中世の城が失われた」と惜しむ声が溢れ返りました。
それから歳月を経た曽木発電所遺構の現在は、完全に消滅してしまったわけではありません。現地を訪れると、巨大な石造りの基台部分や取水アーチ、発電機が据え付けられていた強固なコンクリート基礎、そして崩落を免れた側面の赤煉瓦壁が、今なお湖底にどっしりと根を張っています。かつての端正なシンメトリー美から、過酷な自然の猛威と時間の堆積を物語る「生きた廃墟」へと姿を変え、独特の凄みを漂わせています。
伊佐市や鶴田ダム管理所による安全点検と瓦礫の安定化措置が施された結果、対岸の高台に位置する「曽木発電所遺構展望所」からの眺望環境は維持されています。湖水からゆっくりと立ち現れる赤褐色の輪郭は、かつての優美さを知る人には切なさを抱かせる一方、初めて目にする訪問者には「失われゆく美しさの極致」として強い印象を残しています。