宮田選手の件で見られた「厳格すぎる規律適用」の裏には、日本体操協会が過去に幾度となく直面してきた指導体制とガバナンスの不祥事に対する強烈なトラウマが存在します。その最たる例が、2018年に体操女子・宮川紗江選手が告発した一連のパワハラ騒動です。
当時の女子強化本部長夫妻による威圧的な言動や指導権の乱用が疑われ、第三者委員会による長期の調査が行われました。最終的な調査報告書では一部の直接的暴力行為に関する認定は見送られたものの、特定の有力指導者に権限が集中し、選手や民間クラブが意見を言えない「密室的ヒエラルキー」の弊害が白日の下に晒されました。日本体操協会の不祥事の真相を探ると、古くから存在する名門クラブ・出身大学による派閥争いと、メダル至上主義がもたらす指導者の絶対権力化が根底に横たわっていたことが分かります。
こうした閉塞感を打破すべく、協会は外部弁護士を交えたガバナンスコードの策定、通報窓口の設置など近代化を進めてきました。しかし、長年培われた「指導者に絶対服従」「私生活のすべてを競技に捧げる」という旧態依然としたスポーツ観は、制度を変えても現場の無意識の中に残り続けました。協会の歴史は、まさにこの強権的指導体制の是正と、近代的なアスリート支援体制の構築とのせめぎ合いそのものだったといえます。