茶屋街の楽しみにおいて、古い町家を改装した空間で味わう食体験は外せない要素だ。しかし、SNS映えだけを追求した店と、土地の文化に根ざした老舗では満足度に雲泥の差が生まれる。ここでは、各街区で確実に選ぶべき名店の実態を掘り下げる。
ひがし茶屋街における金沢茶屋街カフェ巡りなら、日本屈指の棒茶文化を体験できる「茶房 一笑」が筆頭に挙がる。献上加賀棒茶で知られる丸八製茶場が手がける喫茶であり、一煎ごとに香りが変わる焙じ茶の奥深さを、洗練された静謐な町家空間で堪能できる。また、格子窓からメイン通りを見下ろせる「波結(はゆか)」は、加賀藩前田家の歴史を感じさせる金沢の伝統菓子と抹茶を、絶好のロケーションで味わえる特等席だ。
金沢茶屋街ランチ人気店として名前が挙がるのは、国指定重要文化財の茶屋建築「志摩」のすぐ近くに位置する「十間町(じっけんまち)」周辺の和食処や、茶屋街の奥に佇む郷土料理店だ。加賀野菜や日本海で水揚げされた鮮魚を用いた治部煮(じぶに)御膳は、平均価格帯2,500円〜4,500円と観光地価格に見えるかもしれないが、出汁の引き方と器へのこだわりを鑑みれば妥当以上の価値を提供している。
一方、にし茶屋街へ足を運ぶ最大の動機となっているのが、甘納豆の概念を覆したと評される「甘納豆かわむら」だ。厳選した国産豆を用い、漂白剤や保存料を使わずに豆本来の風味を引き出した逸品は、午前中に売り切れる銘柄も少なくない。店舗奥に併設されたイートインサロン「MAME-HITOTSU」で味わえる賞味期限6分のモナカや季節のパフェは、現地へ直接足を運んだ者だけが味わえる特権と言える。
主計町茶屋街は、昼間のカフェよりも夕暮れ以降の料理屋やバーが真価を発揮する。「割烹 喜乃屋」をはじめとする川沿いの料理店では、浅野川のせせらぎを聞きながら本格的な加賀料理を堪能できる。一見客を歓迎する店舗も増えており、格式の高さを保ちつつ現代のツーリズムを受け入れる柔軟な姿勢が定着している。