多くの読者が抱く「なぜ自衛隊経験者が手製銃を密造できたのか」という疑問に対し、軍事技術・警察捜査の双方から導き出された結論は明確です。彼が犯行に使用した手製銃の構造と、自衛隊で教育される武器知識には、本質的な隔たりが存在します。
まず、海上自衛隊の一般隊員が受ける射撃訓練の実態ですが、教育隊や艦艇勤務中に行われるのは、主に「64式7.62mm小銃」や「9mm拳銃」の安全管理、分解結合、そして年に数回程度の標的射撃検定です。実弾を撃つ機会は年間数十発から百発程度に過ぎず、構造の理解も「決められたマニュアル通りに部品を分解・清掃・再結合する」レベルに限られています。
一方、事件で使用された凶器は、金属パイプ2本を木板に固定し、乾電池と電気回路を用いた「電気着火式の手製銃」でした。現代の軍用小銃(撃針が雷管を機械的に叩いて発射する構造)とは作動原理が根本から異なります。
供述調書や捜査報道によって判明した銃器知識の習得経緯は以下の通りです。
- 基礎的な弾道・耐圧概念:自衛隊時代に学んだ「火薬の燃焼ガス圧」や「銃身の耐久限界」に関する初歩的な物理知識が下地となった。
- 銃本体の設計・製造技術:インターネット上の海外動画サイト、軍事関連の掲示板、爆破物・DIY関連のWebサイトを丹念に調査して独学で習得。
- 火薬の調合・入手:ホームセンターやECサイトで購入可能な農業用肥料や化学薬品を原料とし、自室で黒色火薬を精製。
検察側は、無許可で殺傷能力のある銃器および火薬を製造した行為を極めて危険視し、武器等製造法違反や火薬類取締法違反、銃刀法違反など複数の罪名で追起訴しました。自衛隊が彼に銃の作り方を教えたのではなく、自衛隊で培った「火薬や金属パイプへの心理的ハードルの低さ」に、ネット空間の危険な情報が結合した結果が、あの凶悪な手製銃の誕生につながったのです。