NHK大河ドラマ『龍馬伝』で香川照之氏が怪演した泥臭く嫉妬深い人物像や、SNS上で散見される「悪徳政商」といったイメージは、史実を照らし合わせると一面的な歪曲であることが分かります。
ネット上で度々囁かれる「岩崎弥太郎による坂本龍馬暗殺黒幕説」は、現代の歴史学・文書考証において完全に否定されている俗説です。弥太郎にとって龍馬は、長崎での武器取引や海運ノウハウを共有し、土佐藩と中央政界をつなぐ最大のキーマンでした。龍馬を失うことは、発足間もない弥太郎のビジネス基盤にとっても致命的な痛手であり、暗殺を教唆する動機は皆無でした。
また、弥太郎は単なる強欲な資本家ではありませんでした。福澤諭吉が創設した慶應義塾を財政面で強力に支援し、優秀な人材を高給でスカウトして幹部に抜擢。三菱商業学校(現在の明治義塾)の設立に関わるなど、人材育成への投資を惜しみませんでした。
自著や当時の社員への訓示録に残された言葉には、次のような哲学が記されています。
「商売は他人の金を当てにしてはならない。自己の信念に基づき、一身を賭してやり抜く覚悟がなければ、大業を成すことはできない」
国家の後ろ盾を利用しつつも、最後は自らの資力をすべて投入してリスクを引き受ける覚悟を持っていた点こそが、単なる利権屋と一線を画す点でした。