事件から約10か月後の2015年3月26日、さいたまスーパーアリーナで開催された単独コンサートにおいて、川栄李奈はAKB48からの卒業を電撃発表しました。当時、テレビのバラエティ番組やおバカキャラとしてブレイクし、総選挙でも16位(選抜入り)を果たすなどグループ屈指の人気を誇っていた最中の決断でした。
ステージ上で語られた卒業理由は、痛切かつ真摯なものでした。
「昨年の事件があって、握手会に出られなくなりました。AKB48は握手会を大切にするグループです。ファンの方と触れ合える場所なのに、私はそれに出られない。周りのみんなが出ているのに自分だけが出られない状況で、このままAKBにいちゃいけないんじゃないかとずっと悩んでいました」
退院後、川栄は劇場公演やテレビ収録には復帰したものの、見知らぬ大人数が至近距離に迫る握手会イベントへの復帰は、心的外傷後ストレス(PTSD)の観点からも極めて困難でした。右手の傷跡はリハビリによって日常生活を送れるレベルまで回復していたものの、刃物を突きつけられた瞬間の恐怖は容易に拭えるものではありません。
「握手会を欠席し続ける特例メンバー」としてグループに居座ることを彼女の自尊心とプロ意識が許さなかったのです。「ファンに顔向けできない状態を続けるより、自分が本当に情熱を注げる道で勝負したい」という覚悟が、女優への本格転身という決断を後押ししました。