東西の頂点に立つ名店を訪ねると、それぞれの調理法が到達した極致を目の当たりにする。東京・下町に暖簾を掲げる人形町今半では、澄んだ割り下の温度管理と肉を泳がせる時間の見極めが芸術の域に達している。肉が硬くならない絶妙の火入れで引き上げられた薄切りの黒毛和牛は、口に含んだ瞬間にほどける。
京都・寺町三条で明治6年から続く三嶋亭では、年季の入った南部鉄鍋にザラメが敷かれ、見事なサシの入った牛肉がジュッと音を立てて焼かれる。砂糖の焦げる香ばしさと醤油の芳醇な風味が肉の脂と融け合い、濃厚な旨味が広がる。仲居の手さばきひとつで味が決まるライブ感こそ関西の醍醐味だ。
こうした名店のこだわりは、日本の外食・精肉産業におけるカット技術や熟成基準の底上げにも大きく寄与してきた。ミリ単位で計算された肉の厚みは、それぞれの調理法で最も脂が甘く溶け出すよう計算し尽くされている。