山頂に行政上の県境がない最大の謎を解く鍵は、江戸幕府を開いた徳川家康の決断にある。1606年、関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康は、勝利への感謝として富士山8合目より上の広大な土地を富士山本宮浅間大社に寄進した。
この歴史的寄進を根拠として、現代においても8合目以上の山頂エリアは浅間大社の奥宮境内地、すなわち私有地として扱われている。戦後の国有化をめぐる長年の訴訟を経て、2004年に最高裁判所の判決に基づき、浅間大社への土地譲与が正式に完了した。つまり山頂は静岡県のものでも山梨県のものでもなく、神社が所有する聖域なのだ。あえて行政上の境界線を確定させない判断こそが、信仰の地としての尊厳を守り、無用な地域対立を防ぐ智恵となっている。