能面師が彫り上げる真蛇の面には、背筋が凍るほどの異様さと、どこか神聖なまでの迫力が同居しています。
般若面を正面から見ると怒りの表情に見え、やや俯かせると泣いているように見える「照らし・曇らし」の陰影表現があるのに対し、真蛇面はどの角度から見ても容赦のない冷酷さと獣性が際立ちます。
額から生える角は鋭く尖り、頭皮には蛇の鱗を思わせる模様や生々しい彩色が施されます。何よりも特徴的なのは、大きく裂けた口から覗く長い二叉の舌と鋭い牙です。感情の暴走によって人間の形態を維持できなくなった悲劇の極点でありながら、工芸品としては極めて完成度の高い造形美を誇っています。