造営 材 と は、単に建物を形づくる木材の総称にとどまらない。社寺や公共施設、大規模建築に至るまで、空間の骨格、審美性、そして数十年から数百年先におよぶ建物の寿命を一手に引き受ける至高の中核資材である。木目を読み、樹齢を感じ取り、狂いを計算して適材適所に配する思想は、かつて法隆寺の宮大工棟梁・西岡常一氏が残した「木を買わず山を買え」という言葉に凝縮されている。現代の建築プロジェクトにおいても、この本質は寸分も変わっていない。
脱炭素化の要請と国産材回帰の流れを受け、建築業や木材産業・林業を取り巻く環境は激変した。隈研吾氏が参画した新国立競技場整備事業を契機に、都市木造への注目は加熱の一途をたどる。しかし、現場の設計者や施工主からは「構造材と何が異なり、何を基準に選べば失敗しないのか」という戸惑いの声が依然として絶えない。そもそも造営 材 と はどのような資材を指し、なぜ今これほどまでに重要視されているのか。業界の深層を取材した。
構造材との決定的な違いとは?造営材の基礎知識と最新の選定基準
木造建築を計画する際、最も混同されやすいのが「構造材」と「造営材」の境界線だ。一般的な構造材は、建築基準法で規定された荷重や地震力に耐えるための柱や梁、土台などの力学的部材を指す。一方、造営材は力学的強度に加え、木肌の美しさ、年輪の緻密さ、経年変化の予測、空間全体の格調までも包括した「建築を成立させるための総合木材」と位置づけられる。
構造材が「強度数値をクリアする工業製品」としての性格を強めているのに対し、造営材は一本一本の木の個性を見抜く眼識を要求する。一般社団法人日本建築学会の技術知見や建築構造工学の研究でも、木材の異方性(方向による性質の違い)や乾燥収縮が建築全体の寿命に与える影響が再検証されている。ただ規格に適合しているだけでは、百年耐えうる建築の造営材としては不十分なのだ。
最新の選定現場では、含水率15%以下を担保する高度な人工乾燥技術と、木の細胞構造を壊さない天然乾燥のハイブリッド調達が主流になりつつある。無駄な歩留まりを抑えつつ、狂いの出ない材を初期段階でスクリーニングすることが、長期的なメンテナンスコスト削減と資産価値維持に直結する。
伊勢神宮の式年遷宮から新国立競技場へ受け継がれる木造の思想
造営材の究極の姿は、千三百年以上にわたり繰り返されてきた伊勢神宮式年遷宮造営事業にある。20年に一度の遷宮のために、何百年も前から宮域林で檜を育て、伐採し、清流に晒してアクを抜く。気の遠くなるような時間をかけて準備される御用材は、まさに持続可能な造営材の原点といえる。
社寺建築・伝統木造工法で培われたこの叡智は、現代のモニュメンタルな建築にも色濃く受け継がれている。全国47都道府県の地域材を集めて屋根トラスを組み上げた新国立競技場整備事業は、古代の造営思想を現代のサプライチェーンで再現した好例だ。隈研吾氏が追求する「環境に溶け込む木造」は、単なる表層のデザインではなく、木材の産地から加工、架構に至るストーリーそのものを造営材として統合している。