SNSや動画投稿サイト、知恵袋などで「ハイターで色落ちした服に重曹とクエン酸を混ぜて塗れば元に戻る」という言説が定期的に拡散されます。しかし、現場のクリーニング技術者や染織のプロに取材すると、この情報は完全な誤情報(デマ)であると一刀両断されます。
重曹(炭酸水素ナトリウム)は弱アルカリ性、クエン酸は酸性であり、両者を混ぜ合わせると激しく発泡して二酸化炭素と水、クエン酸ナトリウムが生じるだけです。この泡の物理的な力で軽微な油汚れが浮くことはあっても、破壊されて消滅した染料分子が再合成されることは現代化学の理論上、100%あり得ません。実際に試した一般ユーザーからも「まったく色が戻らなかった」「発泡して生地が余計に傷んだ」という落胆の声が多数寄せられています。
ただし、重曹やクエン酸が全く無駄かといえば、用途を限定すれば意味を持ちます。塩素系漂白剤が付着した直後、繊維の深部に残留した次亜塩素酸は時間をかけて布地そのもの(セルロースやタンパク質繊維)を脆弱化させ、穴あきの原因になります。このとき、弱酸性のクエン酸水溶液やたっぷりの水で十分にすすぎ洗いを行うことは、「塩素の酸化反応を強制停止させる中和措置」として極めて有効です。
また、先述した「日焼け止めによるピンク変色」に対しては、酸性洗剤やクエン酸水溶液に浸け置くことで錯体構造が分解され、元の白色に戻る事例が確認されています。このように、「何が原因で何色に変色したのか」を切り分けずに重曹やクエン酸を使っても、脱色トラブルの解決には至らない点に注意が必要です。