駅前という舞台が放つ独特の哀愁とエネルギーは、かつて日本のカルチャーシーンのど真ん中に君臨していた。その頂点を象徴するのが、1961年に東宝株式会社が世に送り出した映画『駅前食堂』である。久松静児がメガホンを取り、当時の日本映画界を牽引した名優たちが結集した本作は、駅周辺の再開発に揺れる人々の悲喜こもごもを軽妙洒脱に描き出し、空前の大ヒットを記録した。
稀代の怪優・森繁久彌が見せたペーソス漂う円熟の演技と、天性のリズム感でスクリーンを席巻したフランキー堺による丁々発止の掛け合いは、まさに人情喜劇の到達点と呼ぶにふさわしい。高度経済成長へと突き進む社会のなかで、取り残されまいと奮闘しながらも、どこか憎めない庶民のしたたかさと優しさをユーモラスに活写した。
映画『駅前シリーズ』の記念すべき一作として歴史に刻まれたこの作品は、単なる娯楽映画の枠組み組みを越え、当時の食文化や都市風俗を克明に記録した貴重な文化的ドキュメントとしての価値をも今に伝えている。