メガホンを取った高橋伴明監督は、商業映画の予定調和に甘んじることなく、終末期の生々しい肉体の変化と心の機微を容赦なくカメラに収めた。そこに魂を吹き込んだのが、長年尼崎市で在宅医療に携わってきた医師・長尾和宏の臨床現場における生の叫びだ。
日本映画界において、死を美化せず、かといって過剰に絶望視もせず、ありのままの「生の終焉」として描いた例は極めて稀である。高橋伴明監督は、病院死が多数を占める現代において、自宅で迎える死の選択肢をスクリーンに叩きつけた。長尾和宏氏の「痛くない死に方」「苦しまない最期」を追求する医療哲学が映画の根底に流れており、観る者は制度や常識に縛られたこれまでの死生観を根底から覆されることになる。