ネット上の掲示板や知恵袋などで定期的に浮上するのが、「油つぼには毒が含まれているのではないか」「ぼんじりの焦げを食べるとがんになる」といった極端な言説です。これらは事実無根のデマ、あるいは著しい誇張が独り歩きした典型例と言えます。
まず「油つぼ」の誤解について検証します。油つぼの正式名称は「尾脂腺(びしせん)」と呼ばれる分泌器官です。鳥類はこの器官から分泌される油脂をくちばしで全身の羽毛に塗りつけ、撥水性を保っています。この油つぼには人体に対する毒素や病原物質は一切含まれていません。
それにもかかわらず、仕込みの段階で必ずといっていいほど除去されるのは、「強烈な生臭さと酸化臭の原因になるから」です。尾脂腺の脂は独特の獣臭や青臭さを放ち、そのまま加熱調理すると肉全体に不快なえぐみが移ってしまいます。名店と呼ばれる焼き鳥店や精肉卸の現場では、鋭利な骨スキ包丁で左右の油つぼを丁寧に切り落とし、中心の小骨を取り除いてから串打ちを行います。市販されている下処理済みのぼんじりや専門店の串において、毒の心配をする必要はまったくありません。
次に、炭火焼き特有の「焦げ」による発がん性のリスクです。肉の脂が炭火に落ちて煙が立ち上り、高温で焼き上げられる過程で、タンパク質が変性して「ヘテロサイクリックアミン」や「多環芳香族炭化水素(PAH)」といった微量の変異原性物質が生成されるのは事実です。しかし、国立がん研究センターなどの研究機関が示す見解によれば、人間が日常の食事で摂取する焼き鳥の焦げの量でがん発症リスクが有意に上昇するとは考えにくいとされています。体重60kgの成人であれば、毎日数トンの焦げを食べ続けない限り実験動物レベルの発がんリスクには達しません。焦げを親の仇のように恐れるよりも、高脂質による肥満や生活習慣病リスクをコントロールするほうが医学的にはるかに重要です。