夏目匠を演じた菊池風磨の芝居は、まさに圧巻の一言だった。表向きは傲慢で自信に満ちあふれた敏腕建築士。だがその実態は、初恋相手の八重を一途に想い続けるあまり、空回りし続ける「超絶ピュア男」という二面性を持つ。菊池は、八重の前で見せる冷淡な態度と、彼女が見ていない瞬間に溢れ出す動揺や歓喜の表情を、微細な表情筋の動きや視線の泳ぎで見事に演じ分けた。完璧な男が恋に翻弄される滑稽さと切なさが、彼の肉体を通して鮮やかに立ち現れる。
対する千堂八重を演じた長濱ねるの佇まいも素晴らしい。お人よしで自己肯定感が低く、他人の幸せばかりを優先してしまう八重の脆さを、長濱は過剰な悲壮感を漂わせることなく、自然体の柔らかな声と眼差しで体現した。匠の高級タワーマンションで暮らしながらも常にどこか居心地の悪さを抱える八重の心理描写は、観る者の共感を強く誘った。二人が交わすぎこちない会話の裏側には、幼少期の記憶や言えなかった本音が幾重にも織り込まれており、その繊細な裏設定が偽装結婚という非日常に圧倒的な説得力を与えている。