作家としての成功にとどまらず、自らの世界観を具現化する場として展開したのが数々の人気カフェやレストランでした。東京・広尾の「カフェ・デ・プレ」をはじめ、レストラン「ア・ターブル」やベーカリーなど、洗練された空間と本場仕込みのメニューは感度の高い人々の熱狂的な支持を集めました。
ところが2000年代半ば以降、あれほど繁盛していた店舗が次々と閉店・撤退へと追い込まれます。ファンの間で様々な憶測を呼んだ閉店理由の背景には、主に以下のような複合的な要因が存在していました。
第一に、急激な事業拡大と店舗運営の乖離です。人気が高まるにつれて出店ペースが加速し、パトリス氏自身が目指していた「細部まで心の行き届いた温もりある空間」をチェーン規模で維持することが極めて困難になりました。クオリティや世界観の管理をめぐり、提携ビジネスパートナーや現場との摩擦が生じたと伝えられています。
第二に、彼自身の価値観の原点回帰です。過密なスケジュールと売上至上主義のプレッシャーに追われる中で、「自分は本当にこの生活を望んでいるのか」という根源的な疑問を抱くようになりました。他人にライフスタイルを説きながら、自身がビジネスの忙殺に呑まれる矛盾に終止符を打つため、彼は惜しまれつつも飲食ビジネスの第一線から完全に身を引く決断を下しました。