日本の高級皮革製品製造業において、これほど格式ある歴史を刻んできた名門は他に類を見ない。株式会社濱野皮革工藝の歩みは、日本の近代化とともに始まった。創業者が掲げた「日本女性を最も美しく見せるバッグを創る」という志は、やがて宮内庁の目に留まり、皇室の公式行事やお出ましの場を彩る信頼の証を獲得するに至る。
特に知られているのが、上皇后美智子さまのご愛用だ。ご成婚当時から重要なお立ち会い、国際親善の場に至るまで、濱野の手がけたバッグは常にその手元で慎ましやかな光を放ってきた。決して主張しすぎず、それでいて所作を最も美しく引き立てる黄金比のプロポーション。それは日本の伝統的な「控えめな美徳」を形にしたものに他ならない。
その名声は国境を越え、モナコ公国の公妃となったグレース・ケリーの元へも届いた。3代目当主である濱野敬之が手がけたバッグの芸術的な美しさに感銘を受けた公妃は、軽井沢の工房へ自ら足を運び、特注のバッグをオーダーしたという伝説が残る。世界のセレブリティを陶酔させたその美学は、今なお現行のコレクションへと脈々と息づいている。