人前で食事ができなくなる苦しみは、現代特有の病態と思われがちだが、その心理構造は古くから精神医学の探求対象だった。大正期に独自の精神療法を確立した精神科医の森田正馬は、対人恐怖や赤面恐怖の根底にある「とらわれの機制」を看破した。「普通に見せたい」「弱みを悟られたくない」と強く願うほど、自己の身体反応へ注意が過度に集中し、症状が悪化するという逆説的な心理力学である。
現代の医学的分類において、日本精神神経学会の臨床指針などでは、この病態は社交不安障害(SAD)の代表的な一類型として整理されている。他者からの否定的な評価や視線に晒されることへの恐怖が、食事という無防備な行為を通して身体化している状態だ。単なる内気や偏食ではなく、治療とケアを要する確立された心身の障害として捉える認識が医療現場でようやく定着しつつある。