晩年の彼が到達した表現の深遠を示す名作が、映画『ふるさと』である。ダム建設によって水没しゆく村で、老いと向き合いながら生きる老人を熱演。その過飾のない自然体の演技は世界的な評価を獲得し、第13回モスクワ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
これはまさに、心揺さぶるヒューマンドラマの到達点であった。言葉少なに山々を見つめる横顔、時の流れを受け入れる佇まい――。海外の批評家たちは「言葉の壁を超えて人間の魂の深淵を描き出した」と絶賛。日本映画の演技水準の高さを世界へと知らしめた瞬間であった。