彼を語るうえで、同時代を併走した作家・司馬遼太郎との交友は外せない。二人が交わした幾多の議論は、明治の黎明期から昭和の破綻に至る日本の精神構造を浮き彫りにする知的な格闘だった。合理的な精神で国家をデザインしようとした坂の上の時代と、非合理な精神主義に溺れて自壊していった軍部独裁の時代。その落差を解き明かす作業において、二人は互いの視座を研ぎ澄まし合った。
司馬が大きな歴史のうねりを壮大な叙事詩として描き出したのに対し、半藤は組織の末端で下された一つの曖昧な判断が、いかにして国家全体を壊滅へ導いたかというメカニズムの解剖に徹した。名著『昭和史』に結実した緻密な構造分析は、司馬との対話を通じて磨かれた「複眼の思考」があったからこそ到達できた高みである。