椎名林檎の美学を語る上で、スタイリストであり衣装デザイナーの飯嶋久美子の存在を外すことはできない。長年にわたり彼女のクリエイティブを支え続けるこのタッグは、単なるアーティストとスタイリストという受発注の関係をとうに超越している。所属事務所である黒猫堂の綿密なディレクションと、レーベルのユニバーサル ミュージック ジャパンによる後押しのもと、二人が生み出す舞台衣装デザインは毎回スリリングな実験の連続だ。
飯嶋の手掛けるピースは、伝統工芸の粋を集めた西陣織や友禅をアナーキーに切り刻み、洋装のコルセットや先鋭的なシルエットと縫合する。決して懐古主義に陥らない。トラディショナルな日本の美意識を、現代のストリートとハイファッションの交差点へと容赦なく引きずり出すのだ。身体の可動域やマイクスタンドの捌き方、ライティングによる偏光まで計算し尽くされたその造形美は、服そのものがひとつの楽器として機能している証左でもある。