メタディスクリプションでも触れた「ひき肉を生のまま入れて本当に美味しいのか」という疑問に対する調理科学的な答えは、明確に「条件付きでイエス」です。むしろ、ひき肉を下炒めせずに炊飯器へ投入する最大のメリットは、肉汁(イノシン酸)と上質な脂の旨味を余すことなく米のデンプンにコーティングできる点にあります。
フライパンで事前に炒めた場合、加熱によってタンパク質が急激に収縮し、内部の水分と旨味成分が肉の外へと流出してしまいます。その脂を捨ててしまえばパサつきの原因になり、逆に炒めた油ごと炊飯器に入れれば油膜が米を覆って吸水を阻害し、米に芯が残る失敗を引き起こします。生のまま炊飯器に入れる調理法は、密閉された釜の中で約100℃の蒸気熱によりじっくりと肉タンパクを熱凝固させ、溶け出たゼラチン質と脂質を米の糊化(こか)デンプンと乳化させるため、ふっくらと柔らかな食感を生み出せるのです。
一方で、懸念される「特有の獣臭」は、ひき肉の表面積が広いために起こる脂質の酸化と、血液中のヘモグロビン由来の成分が熱分解する際に生じる揮発性アルデヒドが原因です。これを完全に断ち切る鍵が「すりおろし生姜」と「清酒」の組み合わせです。アルコールが揮発する際に不快臭を抱え込んで蒸発させる「共沸効果(きょうふつこうか)」と、生姜に含まれるジンゲロールの消臭・抗酸化作用が働くことで、炒める工程を挟まなくとも驚くほど清涼でコク深い仕上がりになります。