体内を滞りなく流れている限りは無害どころか必要不可欠な胆汁ですが、その流れが滞ると生体にとって劇薬のような牙を剥きます。これが臨床で警戒される「胆汁うっ滞」です。
胆汁うっ滞の原因は、物理的な通過障害(総胆管結石や腫瘍による狭窄)から、薬剤性肝障害、自己免疫性疾患(原発性胆汁性胆管炎など)による微細な胆管の破壊まで多岐にわたります。胆汁がうっ滞すると、排泄されるべき直接ビリルビンや胆汁酸が血液中へ逆流し、全身を巡り始めます。
身体が発する代表的な異常サインは以下の通りです。
- 灰白色便(白い便):胆汁が腸に届かないため、便に着色(ステルコビリン化)されず、粘土や白膏のような便が出る。
- 濃褐色尿(紅茶色の尿):血中に溢れた水溶性のビリルビンが腎臓から尿中へ過剰排泄され、ウーロン茶や濃い紅茶のような色になる。
- 皮膚の掻痒感(かゆみ):血中に逆流した胆汁酸が皮膚の知覚神経末端を刺激し、発疹がないにもかかわらず全身に激しいかゆみが生じる。
- 黄疸(おうだん):ビリルビン基準値(通常1.2 mg/dL以下)を大きく超え、白目(眼球結膜)や皮膚が黄色に染まる。
特に注意を要するのが、胆嚢内でコレステロールやビリルビンが結晶化して固まる「胆石症」です。日本消化器病学会のガイドライン等でも指摘されている通り、日本人成人の約10人に1人が胆石を保持しているとされます。無症状のまま経過するケースも多いですが、結石が胆のう管や総胆管に詰まると激痛を伴う胆石疝痛発作(右季肋部やみぞおちの激痛、右肩への放散痛)を引き起こします。
さらに閉塞部位に腸内細菌が逆行性感染を起こすと「急性胆管炎」へと移行します。発熱(悪寒戦慄)、右季肋部痛、黄疸の3つは「シャルコーの三徴」と呼ばれ、急速に敗血症やショック状態へ陥る恐れがあるため、一刻を争う救急医療の対象となります。