国民的キャラクターの声を代わるということは、既存のイメージと常に比較される苛酷な試練を意味する。森川智之が野原ひろし役の代役・後任を引き受けた際、彼が最も大切にしたのは、先代である藤原啓治氏が長年かけて築き上げた「ひろし像」への絶対的なリスペクトだった。単に声質を真似るのではなく、彼が醸し出していた足の臭いさえも愛おしく思わせるような温かみ、頼りなさの裏にある男気、そして家族への無償の愛というエッセンスを丹念に紐解いていったという。
アフレコ現場において、森川は藤原氏の残した過去の音源を何度も聴き返し、吐息の混じり方や間合いの取り方を徹底的に研究した。自身が代表を務める声優事務所アクセルワンでの後輩指導や数多の主役経験を持つベテランでありながら、謙虚な姿勢でキャラクターと向き合い続けたのである。引き継ぎ直後は一部で戸惑いの声も聞こえたが、回を重ねるごとに「森川ひろし」は視聴者の心に自然と染み込んでいった。それは単なる代役を超えた、役に対する誠実な情熱が生んだ必然の結晶と言える。