大橋巨泉さんの終末期において、現在もインターネット上などで「医療ミスが直接の死因ではないか」という疑問の声が上がることがあります。この疑惑の発端は、巨泉さん本人が2016年5月、レギュラー執筆していた雑誌コラムなどで生々しく告白した「在宅医による鎮痛薬の誤投与トラブル」にあります。
2016年4月、左肩の手術を終えた巨泉さんは、住み慣れた自宅での療養を希望し、在宅医療へと切り替えました。この際、痛みを緩和するために処方されたのが、医療用麻薬であるモルヒネ系鎮痛剤でした。しかし、巨泉さんの証言および遺族の回想によると、処方された用量が患者の消耗した体格に対して過多であったとされています。投与開始後、巨泉さんは極度の意識混濁や強烈な倦怠感、激しい嘔吐に見舞われ、自力で起き上がることすら不可能な状態に陥りました。
異変に気付いた妻・寿々子夫人が即座に救急搬送を手配し、総合病院の集中治療室(ICU)へ緊急入院。医師による解毒処置(拮抗薬の投与)が行われたことで一命を取り留めました。しかし、この数週間の間に食事摂取が困難となり、体重は一時30kg台にまで激減。歩行能力も失われ、ベッド上から動けない状態にまで体力を奪われてしまったのです。
巨泉さんは当時の手記で、担当した在宅医に対する強い憤りを表明し、「危うく殺されるところだった」と激しい言葉で告発しました。医学的な因果関係として、直接の死因は2か月半後の「急性呼吸不全」であり、法的な意味での医療過誤事件として立件されたわけではありません。しかし、終末期がん患者における繊細な薬量コントロールの難しさと、在宅医療現場での連携不備が、巨泉さんの残されていた体力を不可逆的に奪った要因の一つであったことは、紛れもない事実として記録されています。