ボカロ文化における『夜もすがら君想ふ』の特異性は、「歌ってみた」シーンとの強力なシナジーにあります。原曲GUMIの透明感あるボーカルが提示した淡々とした哀愁に対し、生身の人間のシンガーたちが吹き込んだ情熱的なボーカルアプローチが楽曲の解釈をさらに深めました。
なかでも天月-あまつき-によるカバーは、YouTube等で圧倒的な再生数を記録し、原曲と並ぶ金字塔として語り継がれています。天月の少年性と大人の色気を併せ持つハイトーンボイスは、「情けなくてかっこつかないけれど、君への想いだけは本物だ」という主人公の不器用な誠実さをエモーショナルに増幅させました。
また、初期の歌ってみたシーンを牽引したりょーくんによる艶やかなアコースティックアレンジや、すとぷりのメンバー・ころんによる真っ直ぐで力強い歌声など、歌い手それぞれのキャラクターが投影されることで、楽曲の多面的な魅力が開花しています。無機質なボーカロイドが歌う「客観的な叙情詩」と、人間が叫ぶ「主観的なラブソング」の双方が高次元で成立している好例と言えます。