映画で役所広司や市村正親らが命を賭して挑んだ標的、松平斉韶。そのモデルとなったのは、第11代将軍・徳川家斉の二十五男であり、明石藩主となった松平斉宣である。劇中での彼は、罪なき農民を虫ケラのように殺し、妊婦の腹を裂くといった「絶対悪」として描かれた。
実際の斉宣はどうだったのか。史実における彼は、そこまでの猟奇的な殺人鬼ではなかったという見方が強い。しかし、彼の周囲で異常なまでの緊張感と怨嗟が渦巻いていたのは事実だ。将軍の息子という超VIPでありながら、明石藩の財政を破綻寸前に追い込み、領民や家臣に過酷な負担を強いた。その傲慢な振る舞いは、周囲の人間を精神的に追い詰めるに十分なものだった。