彼の演技力の根底には、長年にわたる教育活動と舞台経験で培われた確かな技術が存在する。桐朋学園芸術短期大学で演劇を学び、同校で長年講師として後進の指導にあたっていた経歴は、彼の緻密な演技論の基盤となった。教壇に立ちながらも演技の本質を追求し続けた姿勢が、のちの圧倒的な表現力へと結実していく。
転機となったのは、劇作家・平田オリザが主宰する劇団「青年団」への参加だ。40代半ばを過ぎてから本格的に舞台に立ち始めた彼は、いわゆる「静かな演劇」のスタイルの中で、日常の会話の機微や間(ま)を完璧にコントロールする技術を磨き上げた。大声で叫ぶわけでもなく、派手なアクションをするわけでもない。ただそこに佇み、静かに言葉を紡ぐだけで観客の感情を揺さぶる独自のスタイルは、この演劇体験から生まれたものだ。