鴻門之会の現代語訳と真相解説!項羽が劉邦を討てなかった真の理由とは

鴻門之会の現代語訳と真相解説!項羽が劉邦を討てなかった真の理由とは

鴻門之会の現代語訳と真相解説!項羽が劉邦を討てなかった真の理由とはの特集記事をお届けします。専門的な知識がチェックできます。

教科書や試験で頻出するハイライトシーンを、白文・書き下し文・現代語訳のセットで詳細に解説します。原文の呼吸を感じ取ることで、当時の宴席を包んでいた張り詰めた空気が鮮明に立ち現れてきます。

第1幕:劉邦の命がけの謝罪と項羽の油断

劉邦が鴻門に到着し、項羽に対して徹底的な臣従の礼をとる緊迫の場面です。

【白文】
沛公旦日従百余騎来見項王。至鴻門、謝曰、「臣与将軍戮力而攻秦。将軍戦河北、臣戦河南。然不自意、能先入関破秦、得復見将軍於此。今者有小人之言、令将軍与臣有郤。」

【書き下し文】
沛公旦日百余騎を従へて来たりて項王に見(まみ)ゆ。鴻門に至り、謝して曰はく、「臣将軍と力を戮(あは)せて秦を攻む。将軍は河北に戦ひ、臣は河南に戦ふ。然れども自ら意(おも)はざりき、能(よ)く先に関に入りて秦を破り、復(ま)た将軍と此に見ゆるを得んとは。今小人の言有り、将軍をして臣と郤(げき)有らしむ」と。

【現代語訳】
劉邦は翌朝、百騎余りの手勢を引き連れて項羽に拝謁しに来た。鴻門に到着し、陳謝して言った。「私は将軍(項羽)と力を合わせ、ともに秦を討ち破ってまいりました。将軍は黄河の北で戦われ、私は黄河の南で戦いました。しかしながら、思いがけず私の方が先に関中に入って秦を破ることになり、こうして再び将軍とこの地でお目にかかることができました。現在、つまらない小人の告げ口があり、将軍と私との間にわだかまりを生じさせているようでございます」

劉邦は自らを「臣」と呼び、項羽を立てながら「関中に先に入ったのはまったくの偶然であり、手柄を独り占めする意図は毛頭ない」と訴えました。項羽はこの謙虚な態度にすっかり気を良くし、「これは貴殿の部下である曹無傷が言ったのだ。そうでなければ、私がどうして疑おうか」と、あっさりと情報提供者を漏らしてしまいます。この一言こそが、項羽の政治的稚拙さを如実に表す決定打でした。

第2幕:范増の謀略と「項荘の剣舞」

宴が始まると、項羽の軍師・范増は劉邦の危険性を察知し、始末するようサインを出し続けます。

【白文】
范増数目項王、挙所佩玉決以示之者三。項王黙然不応。范増起出、召項荘曰、「君王為人不忍。若入前為寿。寿畢、請以剣舞、因撃沛公於坐、殺之。不者、若属皆且為所虜。」

【書き下し文】
范増数(しばしば)項王に目配せし、佩(お)ぶる所の玉決(ぎょくけつ)を挙げて以て之に示すこと三たびす。項王黙然として応ぜず。范増起ちて出で、項荘を召して曰はく、「君王人と為り忍びず。若(なんぢ)入り前(すす)みて寿を為せ。寿畢(を)はらば、請ひて剣を以て舞ひ、因(よ)りて沛公を坐に撃ちて之を殺せ。不者(しからずんば)、若が属皆且(まさ)に虜(とりこ)とする所と為らんとす」と。

【現代語訳】
范増は何度も項羽に目配せをし、腰に下げていた決断を促す玉決(輪の形をした玉器)を掲げて合図すること三度におよんだ。しかし項羽は黙り込んだまま何も応じない。范増は席を立って外へ出ると、親族の項荘を呼び寄せて言った。「わが君は情にもろく非情になりきれない。お前が中に入って健康を祝す杯を捧げよ。それが終わったら、余興に剣舞を所望し、その隙をついて座上の劉邦を刺殺せよ。そうでなければ、我らはみな奴の捕虜となってしまうぞ」

堂々と宴席に入った項荘は剣を抜いて舞い始めますが、これに気づいた項羽の叔父・項伯も「一人で舞うのは興ざめだ」として剣を抜きます。項伯は常に身を挺して劉邦をかばい、項荘は劉邦を斬ることができませんでした。ことわざの「項荘舞剣、意在沛公(項荘剣を舞わす、意は沛公にあり=表面上は別のことを装いながら、裏に真の狙いがあること)」の語源となった名場面です。

第3幕:樊噲の乱入と命知らずの直言

劉邦の命が風前の灯火となったとき、軍師・張良が外へ出て猛将・樊噲(はんかい)を呼びます。樊噲は盾と剣を手に、制止する衛兵をなぎ倒して宴席の陣幕を引き裂き乱入しました。

【白文】
項王曰、「壮士。賜之巵酒。」則与斗巵酒。噲拝謝起、立而飲之。項王曰、「賜之彘肩。」則与一生彘肩。樊噲覆其盾於地、加彘肩上、抜剣切而食之。項王曰、「壮士。能復飲乎。」樊噲曰、「臣死且不避。巵酒安足辞。」

【書き下し文】
項王曰はく、「壮士なり。之に巵酒(ししゅ)を賜へ」と。則ち斗巵酒を与ふ。噲拝謝して起ち、立ちながらにして之を飲む。項王曰はく、「之に彘肩(ていけん)を賜へ」と。則ち一の生彘肩を与ふ。樊噲其の盾を地に覆し、彘肩を上に加へ、剣を抜きて切りて之を食らふ。項王曰はく、「壮士なり。能く復た飲むか」と。樊噲曰はく、「臣死すら且(か)つ避けず。巵酒安(いづ)くんぞ辞するに足らん」と。

【現代語訳】
項羽は言った。「見事な豪傑だ。酒を与えよ」と。そこで大杯にたっぷりの酒が与えられた。樊噲は礼を述べて立ち上がり、仁王立ちのまま一気に飲み干した。項羽は「豚の肩肉を与えよ」と言った。すると煮え切っていない生の豚の肩肉が一つ差し出された。樊噲は盾を地面に伏せてまな板代わりにし、その上に肉を乗せると、剣を抜いて切り裂きながら豪快に食らった。項羽が「豪傑よ、まだ飲めるか」と問うと、樊噲は答えた。「私は死ぬことさえ恐れません。大杯の酒ごときをどうして辞退いたしましょうか」

樊噲は続けて、秦を滅ぼした劉邦の功績を称え、「財宝を私物化せず軍を引いて将軍の到着を待っていた忠義の士を殺すのは、滅びた暴虐な秦と同じ道を行くことである」と項羽を真っ向から諌めました。項羽は樊噲の圧倒的な胆力に気圧され、「座れ」としか返答できなくなってしまったのです。

佐々木 一輝
Author

佐々木 一輝

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。