味 楽という屋号を聞いて、真っ先に頭をよぎるのは、日本最北端の冷たい海風が吹き荒ぶ島で立ち上る、あの濃密で香ばしい蒸気だ。羽田から飛行機とフェリーを乗り継ぎ、移動だけで半日以上。おまけに本店が暖簾を掲げるのは昼のわずか2時間半のみ。常識では考えられない極限の立地でありながら、全国のラーメン通を狂熱させてきた伝説の名店である。
日本海にぽっかりと浮かぶ孤島への長旅を経てでも、一杯の味 楽を買い求める人々が後を絶たない。その最大の理由は、丼の底から押し寄せる圧倒的な旨味のグラデーションだ。高級料亭でも珍重される最高級昆布を贅沢に使い、直火で香ばしく焼いた醤油ダレと合わせる「焼き醤油ラーメン」は、一度でも口に含めば食の記憶を塗り替えてしまうほどの衝撃を秘めている。
日本最果ての島で生まれた「焼き醤油」の奇跡
寒風が吹き抜ける北海道・利尻島。ここに店舗を構える「利尻ラーメン味楽」の存在は、ラーメン界におけるひとつの奇跡と言っても過言ではない。店主の勝遠登(かつ つと)氏が生み出した一杯は、極寒の厳しい風土が生んだ至高の芸術だ。
スープの主役を務めるのは、言わずと知れた最高峰の食材「利尻昆布」。じっくりと養分を蓄えた天然昆布は、澄んだ黄金色の出汁を生み出す。しかし勝氏は、単なる昆布出汁の澄んだラーメンにはしなかった。中華鍋を強火で熱し、秘伝の醤油ダレを極限まで焼き上げることで、香ばしい焦がし香と強烈なコクを付与したのだ。一口すすると、昆布の深い甘みと醤油の香ばしさが口いっぱいに広がる。日本各地のラーメンを食べ歩いた愛好家でさえ、言葉を失うほどのインパクトだ。
Netflix『ストリート・グルメを求めて: アジア編』が明かした世界を魅了する裏話
「利尻ラーメン味楽」の名を世界中に知らしめた大きな転機がある。世界の食文化を独自の視点で切り取る人気グルメ・ドキュメンタリー、Netflixオリジナル番組『ストリート・グルメを求めて: アジア編』への出演だ。
世界的な大ヒットとなったこの番組で、厳しい島での生活と妥協なき一杯へのこだわりが緻密な映像美とともに描かれた。世界中の食通たちが息をのんだ。かつて『ミシュランガイド北海道』でビブグルマンに選出された実力は伊達ではない。放送後、過酷なアクセスにもかかわらず、海外からこの味だけを目当てに島を訪れる旅行者が激増。日本のローカルフードが国境を越え、グローバルな外食産業に与えた影響ははかり知れない。