『そんな夕子にほれました』の発売年は1974年(昭和49年)9月。当時、三保ヶ関部屋に所属する現役の幕内力士だった増位山太志郎がレコードデビューを果たした瞬間でした。相撲界からの歌手デビューといえば、豪快な相撲甚句や力強い演歌が定番だった時代に、彼が披露したのは意表を突く極上のムード歌謡でした。
このそんな夕子にほれましたの誕生秘話には、相撲一家に生まれた増位山の天性の音楽センスが深く関わっています。父親である先代・増位山(三保ヶ関親方)譲りの美声に加え、巡業先や酒席で披露していた歌のうまさがレコード会社のスカウト陣の目に留まりました。過酷な稽古の合間を縫ってレコーディングされた楽曲は、発売と同時に有線放送から火がつき、瞬く間に全国のヒットチャートを席巻することになります。
当時、大相撲ファンのみならず一般の音楽ファンまでもが「あの屈強な力士から、なぜこれほど繊細で甘い声が出るのか」と驚嘆しました。現役力士としての本業に真摯に向き合いながら(後に大関へ昇進)、レコード大賞新人賞をはじめ数々の賞を受賞した事実は、昭和歌謡史における稀有な伝説として語り継がれています。