最新の実験室に足を踏み入れると、伝統的なホイロ(発酵室)の横に、高精度の画像解析カメラと温湿度センサーを連動させた実験機が並んでいた。生地表面の膨らみ具合や気泡の細やかさをリアルタイムでスキャンし、発酵の「ピーク」を可視化する試みだ。
しかし、機械に頼り切るわけではない。研究員はセンサーの数値を横目で見つつ、自らの指先を生地にそっと沈め、弾力と指離れの感触を確かめる。「デジタルの数値はあくまで地図。最後にアクセルを踏むかブレーキを踏むかを決めるのは、人間の触覚と嗅覚です」。デジタル技術で再現性を担保しつつ、人間にしか感知できない微細な変化を身体に叩き込む。このハイブリッドな探求姿勢こそが、機械化の進む現代において人間がパンを焼く意味を照らし出している。