国土の約7割を山林が占める日本において、平坦な大草地を前提とした欧米型の大規模放牧をそのまま導入することは難しい。この地理的制約を逆手に取り、独自の生態的酪農を確立したのが農学者・猶原恭爾である。猶原が提唱した「山地酪農」は、傾斜地を切り拓き、日本固有のシバ草型草地を造成して、牛を365日24時間山に放つ画期的なシステムだった。
牛は自らの蹄で山肌に等高線状の道を作りながら斜面を登り降りし、野草やササを平らげる。この蹄圧が土壌を締め固めて山崩れを防ぎ、下草刈りの重労働から人間を解放する。現在、中山間地域で深刻化する耕作放棄地や荒廃農地を再生する切り札として、この日本型放牧の手法が再び脚光を浴びている。放牧牛を「生きた草刈り機」として地域資源の管理に組み込む試みが、全国の自治体や生産者の手で進む。